生まれたときに割り当てられた性別とは、異なる性自認を生きる「トランスジェンダー」。その人権を傷つけるような言説がSNSを中心に起きています。たとえば秋田県内では、一部の議員がトランスジェンダー女性への偏見につながるような発信をSNSなどで繰り返しています。
トランスジェンダーは性的マイノリティの中でも少数です。人口の0.4~0.7%というデータもあります。そして特に、古くからの価値観が根強い地方では偏見や心ない言葉に遭いやすく、孤立しがちな現実があります。そこに追い打ちをかけるように、議員がスマホの指先ひとつで当事者を傷つける発信をしています。一方、当事者の状況を知り、人権を回復しようと行動する議員たちもいます。1月27日、秋田市で開かれた「トランスジェンダーのリアルから安心・安全なコミュニティを考えるフォーラム」。なぜマイノリティの困難は見えにくく、差別に遭いやすいのか。よりよい社会のために何ができるのか。フォーラムの模様を3回にわたって紹介する記事の最終回です。〈1回目 2回目〉
秋田県には3つの男女共同参画センターがあります。当事者にとって安心して相談できる場であるために、さまざまな取り組みをしています。この日は3人のセンター長が日ごろの取り組みや感じていることを発表しました。あるセンター長の発表を、抜粋して紹介します。
中学生から寄せられた、切実な声
私たちのセンターに相談に来た中学生Aさんが、日ごろ疑問に思っていることを話してくれました。
「少数派はのけ者にされるので、みんなと同じものが好きだと言わなければならない。本当に自分が好きなものは隠している。例えば、クラスの女子の中で、水色や紫色が流行っているので、周りに合わせている。本当はピンクが好き。部活動では、男子は運動部に入るもので、家庭部や文化部に入るのはおかしいと陰でうわさされてしまう。女子がスラックスを履くと、これもうわさになる」
このようなことは誰にでも経験がある身近なことではないでしょうか?
中学生で、こんなにもジェンダーによる生きづらさを抱えているということが分かりました。中学生のAさんは、このように周りに同調することで、仲間外れにならないようにしてします。生きづらさを感じていました。本当は誰もが素直に自分を表現して、自分らしく生きたいと思っているはずです。学校の名札は男子が水色、女子がピンクと色が決められているそうなのですが、偏見ではないでしょうか?
部活動で男子が文化部や家庭部に入るのがおかしい、という性別役割分担意識が根強いのは、親御さんの発言なども影響しているのでしょうか?
地元議員のアイデアで図書館が変わる
地元の議員Bさんの話です。Bさんは、ご自身が中学生のときに制服のスカートをどうしても履きたくないと先生に言いましたが「女ならスカートで来い」と言われた経験があるそうです。納得のいく説明がなく、抑えつけられたその経験は、今も忘れることができないと話していました。女性は「〇〇長」と役職の付くものになりにくい、自分は男になりたい、男だったらよかった――と思ったそうです。このような自身の経験から、子どもたちのつらさを少しでも理解し、何か役に立ちたいという思いで、教育機関への理解促進に力を入れています。
Bさんの提案から、地元の図書館ではさまざまな取り組みが進んでいます。
幼少期から多様なセクシュアリティについて知識を持つことが大切と考え、「ジェンダー平等」「人や国の不平等をなくそう」といったテーマを踏まえた絵本の読み聞かせを、小学生を対象に行っています。LGBTQの絵本のリストアップをし、今後も読み聞かせの継続をしていくとのことでした。
Bさんはジェンダーレス制服の推進やLGBTQの相談の充実なども求めています。議会では、LGBTQなどの相談はない――という地元教育委員会の回答があったそうですが、Bさんのところには4件ほど相談があったと聞きました。そのうち3件は中学生、高校生からでした。学校は相談しづらい場所なのか、今後、検討が必要なのかもしれません。
安心な場を提供していきたい
あらためて、男女共同参画センターの役割として、できることを考えてみました。
どんなことに生きづらさを感じるのか、常にアンテナを立てて探ること。差別や偏見を見過ごさないこと。学校にポスターなどで情報提供をし、相談場所の選択肢の一つとなるようにしたい。
いつでも誰でも気軽に寄れる、安心安全な場の提供をしていきたい。話を聞き、寄り添い、そして専門の相談員にもつなげるようにします。多様性理解促進のための研修会や講座を開催し、3センターの連携で、全県をサポートできればと思っています。
トイレが変わるだけで
最後に、このフォーラムで紹介された「トイレ」の話に触れたいと思います。
大館市にある県北部男女共同参画センターには「男子トイレ」「女子トイレ」「多目的トイレ」という三つのトイレがあります。多目的トイレ(個室)はもともと、障害のある人や妊娠中の人、オムツ交換のためのマークがついていましたが、より誰もが使いやすくなるようにと「男女」マークのシールを貼ったそうです。「2枚のシールを貼っただけで、それまでトイレを使いにくかった人にとって使いやすさがアップします。できるところから始めています」とセンター長は語りました。
時枝さんは「『どなたでも入れます、ご利用いただけます』という印があるだけで、当事者にとっての安心感は、全然違ってきます。トランスジェンダーが『男女別』になったトイレを目の前にしたときの躊躇、ためらい、入っていいのだろうか、誰かに見られてないだろうかといった気持ち、いろんな葛藤が働いているということを、ぜひ想像してもらいたいなと思うんです」と話しました。(終わり)
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このフォーラムは「性と人権ネットワークESTO」が主催しました。