目線はどこに

 「反対」を選んだ人の目線は一体、どこを向いているのだろう。そう考え込まされる出来事でした。

 秋田市議会が12月23日、生活保護費の「障害者加算」について市民から寄せられた陳情をまた反対多数で「不採択」としました。

 精神障害のある生活保護世帯が「障害者加算」(障害があることで生じる生活の困難を補うために支給されるお金。額は月に約1万6000円〜2万4000円)を受給するまでの仕組みは、複雑なものになっています。身体障害の場合は「障害者手帳」の等級が1~3級であれば障害者加算を受けられますが、精神障害の場合はそうなっていません。入り組んだ制度のため自治体のミスが頻発し、秋田市でもミスが起こりました

会計検査院の令和4年度決算検査報告書より。秋田市と同様のミスは各地で多発しています

 このような状況を受けて、秋田県や秋田市など県内外の自治体が今、国に対して「複雑な方法を改めて、精神障害も身体障害と同じように、障害者手帳の等級だけで加算の認定ができるようにしてほしい」と要望しています。「当事者が身体障害か、精神障害か」で差をつける合理性はない、という考え方です。

内閣府「地方分権改革に関する提案募集」に秋田県や秋田市など県内外の自治体が提出した要望の文面

 秋田県や秋田市と同じ要望を、秋田市議会としても国に届けてほしい。この日「不採択」になった陳情は、そのような内容のものでした。

 複雑な制度のもとで自治体がミスをした結果、何が起きているのか。秋田市では、ただでさえ苦しい状況に置かれている精神障害のある生活保護世帯がいきなり生活費を2割減らされ(つまり障害者加算を削られる)、借金を背負う(つまり市が誤って支給した障害者加算を、過去5年分さかのぼって返さなければならない)という事態に陥っています

 このようなミスを引き起こす原因をなくすよう、国に意見してほしいというのが陳情の趣旨です。

秋田市議会に出された陳情

 陳情は、12月13日の厚生委員会でまず「不採択」となりました。賛成4、反対4の可否同数だったため、厚生委員会委員長の牧野守議員に採決がゆだねられ、牧野議員は「含意に沿いかねる」(要望をかなえたいと思っても、かなえることができないという意味)として「不採択」を選びました。

 12月23日の本会議では、佐藤純子議員が陳情について「賛成」の立場から次のように意見を述べました。

 「陳情は(秋田市のミスの)原因となった障害者加算を身体障害者と同様に、手帳の等級で加算できるようにと、改正を国に求めています。全国では、令和4年度(2022年度)に42自治体が同様のミスを指摘されています。誤加算について秋田市の開業医は、認定が複雑すぎて、当事者は国の制度のひずみで大変な状況と言える。精神障害者も障害者手帳の等級で行えるようにすべきだと言います。障害を理由とする差別の解消を推進する条例を制定している秋田市議会として、国に対し、改正を求めるべきです。議員皆さんの賛同をよろしくよろしくお願いし、討論を終わります」

 陳情に「反対」の立場からの討論は、ありませんでした。

 採決の結果、陳情は賛成14、反対19で「不採択」となりました。

秋田市議会本会議での市議の採決の画面(令和6年11月市議会定例会LIVE)をもとに作成

 ちなみに秋田市と同様のミスが起きた千葉県や岩手県では、自治体による「障害者加算の返還決定」を県が取り消しました。このうち岩手県は、自治体の判断を「裁量権の濫用であり違法」と断じました。

岩手県の裁決の一部(赤線は筆者による)

 詳しくはこちらの記事に。

 一方の秋田市議会は、「当事者に返還を求めないでほしい」という陳情も6月に反対多数で「不採択」にしています。

賛成8人、反対26人で不採択になった陳情

 この問題でほんろうされている当事者の人たちは、秋田市議会の動きに注目しています。議員の目線がどこを向いているのかも、見ています。

これまでの経緯 秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の1、2級をもつ生活保護世帯に障害者加算を毎月過大に支給していた(障害者加算は当事者により異なり、月1万6620円~2万4940円)。2023年5月に会計検査院の指摘で発覚。市が23年11月27日に発表した内容によると、該当世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給額は約8100万円に上る。秋田市は誤って障害者加算を支給していた120人に対し、生活保護法63条(費用返還義務)を根拠に、過去5年分を返すよう求めている。

【参考資料】

・会計検査院令和4年度決算検査報告https://report.jbaudit.go.jp/org/r04/2022-r04-0196-0.htm

・千葉日報 2024年7月10日 生活保護費13人に返還求めず 印西市の過大支給問題、千葉県裁決受けhttps://www.chibanippo.co.jp/news/national/1247495

・内閣府「地方分権改革に関する提案募集」https://www.cao.go.jp/bunken-suishin/teianbosyu/2024/teianbosyu_fushokaitou2.html

・総務省 行政不服審査裁決・答申検索データベースhttps://fufukudb.search.soumu.go.jp/koukai/Main

・あきた市議会だより195号 https://www.city.akita.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/001/317/tayori195.pdf

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