秋田県秋田市(穂積志市長)が生活保護の障害者加算を28年にわたって誤支給し、対象世帯に過支給分を返すよう求めている問題をめぐり、13日に開かれた秋田市議会厚生委員会では市議から「返還を求めることは『寄り添った対応』とはいえない」など返還への批判的な声が上がった。市議からは、秋田市と同様の事例で返還を求めなかった自治体があるかどうかを尋ねる質問もあった。
返還が取り消しとなった事例はある
返還取り消しとなった自治体を、一般の人でもアクセスして調べられるデータベースがある。全国公的扶助研究会会長で花園大学社会福祉学部教授(公的扶助論)の吉永純さんの解説で、データベースの使い方を見ていきたい。
【これまでの経緯】秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の2級以上をもつ世帯に障害者加算を過大に支給していた。5月に会計検査院の指摘で発覚した。市が11月27日に発表した内容によると、該当世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給額は約8100万円に上る。返秋田市は過去5年分の過大支給を、当事者世帯に返すよう求めている。返還を求められる額は、最も多い世帯で約149万円。
◆◆以下は吉永会長による解説です◆◆
役所のミスで生じた過支給分について、返還を求めなかった自治体としては兵庫県明石市、愛知県豊橋市などの事例が報道されています。
このほかにも、返還請求された当事者が知事に「不服申立て」をし、知事が役所の処分(秋田市の事例で言えば、秋田市福祉事務所長が行う「〇〇円は払い過ぎなので返還してください」という決定)を取り消した例は多数あります。知事が処分を取り消したら、もはや返還を請求することはできなくなります。
このような事例を探す方法があります。全国公的扶助研究会が管理運営している「生活保護裁決データベース」を使った検索です。このデータベースは全国の都道府県知事による認容裁決(不服申立てをした人の主張を認めて元の処分を取り消したもの)を中心に紹介しています。ネット上で公開しており、すべての人がアクセスできるようになっています。
秋田市は返還の根拠について、当事者や支援者に「生活保護法第63条の規定に基づく費用返還を求めていくことになります」と説明しています。市が根拠としている「63条」に基づく返還が取り消しとなった事例がないか調べてみます。
生活保護法
第六十三条(費用返還義務) 被保護者が、急迫の場合等において資力があるにもかかわらず、保護を受けたときは、保護に要する費用を支弁した都道府県又は市町村に対して、すみやかに、その受けた保護金品に相当する金額の範囲内において保護の実施機関の定める額を返還しなければならない。
①まず左側の「法63条返還」の並びにある「実施機関の過誤払」をチェックします↓
②次に、下にある緑色の「検索」をクリックします。すると63件がヒットします。この63件は、役所のミスで発生した過支給の返還を求めた事例のうち、知事が処分(返還)を取り消しさせた事例です↓
③次に、「実施機関の過誤払」と併せて「障害者加算」もチェックします。
すると「障害者加算に絡んだ過支給」に関するケースが10件ヒットします↓
このうち№6852,6857,6950は、秋田市と同じケースです。いずれも役所の返還請求が取り消されています↓
特に№6852,6857で「返還決定が被保護者の最低生活及び自立にもたらす影響等を考慮したうえで、個々の場合に返還を求める金額の決定について適切に裁量を行使しなければならないとされている」と述べていることは重要です。最低生活費からの返還はいかがなものか、と言っているわけです。
№6857はさらに、分割で返還することについても疑義を呈しています。このように、本件類似のケースでも、役所の返還決定は取り消されています。
これらの裁決が示しているのは、役所のミスによる返還決定をしても知事がダメですよという例が多数存在していることです。それでも返還を求めるのですかということになります。
なお、裁決書全文は「ダウンロード」をチェックするとダウンロードできます。