「痛みを失ったら終わり」 議員になって、見えたこと

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 先日、ある研究者に「秋田県は女性の人口流出がとても多く、研究者の間で非常に注目されている」と聞きました。そんな秋田で1月、県議会や市町村議会の女性たちがつながり「秋田県女性議員ネットワーク」を立ち上げました。

 秋田県の全議員(県議と市町村議)456人のうち、女性議員は51人。全体の約11%にとどまっています。ジェンダー平等には程遠い現実がある中で議員になった女性たちは、どんなことを感じているのか。議員を目指しながら、どんなことに悩んできたのか。ネットワークの呼びかけメンバーで、新人県議の櫻田憂子さんと佐藤光子さんに聞きました。  

ハラスメントは起きている 

―県内の女性議員からハラスメントに遭ったというお話を聞くことがあります。男性議員たちに呼ばれて叱責された、閉会後に一人別室へ呼ばれて発言を取り消すよう迫られた、などなど…。女性議員は攻撃対象になりやすいのかなと感じることがあります。

佐藤さん 有権者のかたからも、同じ議員からも(女性議員が攻撃されやすい)というのは、あると思います。女性は「言いやすい相手」なのかもしれません。北秋田市議だったときに地元紙のインタビューを受けて、議会でのハラスメントの経験を話しました。かなり和らげて書いてもらったのですが、それでも地域の人たちから「あんなに赤裸々に語る必要ある?」と言われました。私からすれば、記事になった内容は実際にあったことのごく一部です。ギリギリ、大丈夫なラインで話したつもりだし、あれが全てではない。でも「あんなに話す必要ある?」と言われるぐらいのことを伝えないと、男の人たちは何が問題か気づかないと思います。

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2023年4月に秋田県議選で初当選した櫻田憂子さん(右)と佐藤光子さん

―各議会に女性が1人、2人いるくらいでは孤立してしまうと思います。女性議員ネットワークは、悩んでいる女性たちのよりどころになるのかなと期待しています。

佐藤さん 県議だけじゃなくて、市町村の女性議員の方々も含めてやらないと意味がないと思っています。昨年の6月くらいから、県議の加藤麻里さん、加賀屋千鶴子さんたちと4人で女性議員の会をつくろうと話し合ってきて、ようやく形になりました。なぜ女性議員が必要なのか、これからこの会を通して伝えていきたいです。女性が増えることで、女性が動くことで変わっていくんだという変化を見せたい。そして数が増えるともっともっと変わっていく、というところまでもっていきたいと思っています。単に「女性議員」だけを増やしたいということではなく、多様な声を議会に反映したいというのが本来の主旨です。その中でも圧倒的に女性議員は少ないから、まずここから始めましょうということです。

謎のルールに戸惑う

―佐藤さんが北秋田市議会の時は、女性議員の数は…。

佐藤さん 5人でした。

―意見を言いづらいとか、提案を出しづらいということはありましたか。

佐藤さん 1期目が多分、一番大変だったと思います。32歳で女性ということもあり、相当、その…ヤジがあったように記憶しています。3期目でシングルマザーになってから、児童虐待について一般質問をしたときに「(虐待の原因は)一人親だろう」というヤジをぼそっと言う人もいました。

―ひどい。

櫻田さん 光子さんは市議を何期務めたんでしたっけ。

佐藤さん 4期目の途中で辞めました。私が1期目のときの市議会は新人が多くて、いろいろ改革して、どんどん変えていこうという勢いがすごかったので、ベテラン議員の方々にはたびたび怒られることもありました。議長室に呼ばれて立たされて「謝らないと議会が始まらない」みたいなこともありました。それは「女だから」という理由だけではなかったかもしれないです。

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秋田県女性議員ネットワークの初会合で話し合う女性議員(1月25日、秋田市)

―何かを変えようとすると反発がすごいんですね。いまの秋田県議会はどんな感じですか?

佐藤さん 「議員を何期やったか」というので(権力的な)差はありますね。

櫻田さん ありますね。何か意見を言ったりすると「1年目から何だ」みたいな言い方はちょっとされたりしました。強い言い方ではないにしろ「もっと『勉強』してからそういうことを言ってくるものだ」とか。

―失礼な言い方だと思います。そしてその方たちが言う「勉強」とは…。

櫻田さん おそらく、議会の慣行みたいなものを指しているんだと思います。例えば、上下関係だけじゃなく、ルールみたいなものをまずしっかり理解しろという感じなのかな。こっちは同じ議員として対等だと思って話すんですけど…。でも、いわゆる「勉強」していない議員が疑問に感じることは、市民も疑問に感じていることだと思うんです。もちろんこちらが勉強不足のことはありますよ。

佐藤さん 日々勉強ですよね。それを「完璧な状態」になってから議員になれっていう風潮はあるような気がします。

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秋田県女性議員ネットワークの会合では、課題やアイデアを付箋に書き出しながら話し合った

「プロ議員」にならないように

―女性が議員になりたがらない一因は、そういうおかしな風潮にもあると思います。「自分には無理だ」という思いになってしまうのではないかと。「勉強」してから来いみたいな言葉や圧をかけられ、女性は力を奪われてるんじゃないでしょうか。

佐藤さん 「議員ではない人の感覚」を忘れないことがとても大事だと思うんです。市議会でも4期目になると「市民としての感覚を忘れないぞ」と思っていても、やっぱりしゃべることも、言葉のチョイスもだんだん「議員」になってしまっていたと思います。それでも何とか、どっぷり染まらずにいたかった。議会は、一人が長くいる場所じゃないって思います。同じ人がずっと長く議員でいることは、それは議会にとっても市政にとっても良くないので。空気を入れ替えて、どこかのタイミングで入れ替わっていかなければいけないんだと思います。

―「どっぷり染まらない」というのは大事だと思います。ちなみに佐藤さんは保育問題、櫻田さんは教育問題に力を入れていますね。

佐藤さん 私は基本的に「子どもたちの育ちのために」っていう軸を持って、絶対ぶれないようにと思いながらいろいろ判断しています。

―議員って「オールラウンダー」じゃないといけないのでしょうか。

佐藤さん 県議になったら、すごくそこが壁になっているというか。あれもこれも勉強しなければならず、話す機会もあり、たくさん課題がある。でも本当にやりたい課題はこれだっていうジレンマがあって…。

―それぞれの議員に得意分野があって、その軸を中心にしたらだめなのでしょうか。

佐藤さん だから、いろんな、多様な議員がいればいいなって思います。でもそうはなっていない。地域に市町村議会議員は何人もいるけど、県議となると範囲も広がって人数も減るので、一人に対する声も集中するじゃないですか、いろんなジャンルで。「分からない」とは言えない。

櫻田さん たくさんの声が寄せられます。周りの人たちの期待に、ちょっと潰されそうになるときはやっぱりあって。「オールマイティー」になんなきゃいけないって。悩んでしまうこともあります。

佐藤さん 分かります。

櫻田さん でもそこは、私にできる「筋(すじ)」が一本あればと思ってもいます。

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女性議員が互いの悩みを共有できる「ピアサポート」も活動の柱になっている

あらゆるものが「男性的」

一市民からしたら「これは当然通るだろう」というような意見書が、会派の力関係で否決されて「えっ」と驚いたことがありました。会派って必要なの?と考えてしまいました。

櫻田さん 会派をなくすのは難しいかなと思うけれど、例えばこの課題だったらあの人、これだったらあの人みたいに、それぞれに詳しい人がいて議会一つで「ワンチーム」みたいになったらと願っているところがあります。人それぞれの得意分野で、1人とか数人で進めていく。市民、県民からとってみれば、そういう形がベストなんじゃないか。

―神奈川県の大磯町議会は男女同数が続いていて、しかも一人会派だと聞きました。

櫻田さん それだったら本当にいい政策が通っていく可能性はあるよね。そうじゃないこともあるかもしれないけど。議員になってみて「数」で決まるっていうこの現状に、がっかりだった。

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―多数決になると、やはり女性は少数派なので圧倒的に意見が通りにくいですよね。

佐藤さん 女性議員のネットワークでも、なにか要望書もしくは条例案みたいなものを超党派で作って出していきたいです。課題だと思うものについてみんなで議論を深めて一斉に一般質問したり、一緒に知事に要望書を出したり、目に見える活動をしていきたい。たぶん変化が起きると思う。

櫻田さん 「自分はこうしたい」と思っても、会派の中で言いづらい、抜けづらいという人もいるんじゃないでしょうか。

佐藤さん 「しがらみに巻かれて、うまくやっていく方法もある」っていうふうに方向転換して、次のステップに進む人もいるかもしれないですし。

 ―次のステップとは、市長とか秋田県知事ですかね。結局「大きいところ」「強い者」に同化していかないと次に進めない、ということが繰り返されると、何も変わらないですよね。ちなみに女性議員が少ないことで「これが議会に足りない」と感じたことは何かありますか?

櫻田さん たとえば、秋田県議会の議連(議員連盟=議員が何らかの目的をもって任意でつくる会)では女性議員が代表をしているものはないし、女性議員が事務局をやっているところもない。議連の構成も、女性とか子育てとか教育とか多様性がテーマのものって、ゼロだよね。

佐藤さん ないですね。

―秋田県議会にはどんな議連があるんですか。

櫻田さん 林業、商業、農業とか…。議連をつくるのはすごく大変なことなんだ、と先輩議員に言われました。議連っていうのは何かの団体を応援するためにつくるものだと。じゃあ、建設業とか、農協とか、票を持っている団体の応援団が議連なのかなと思ったり。

ずっと自己評価が低かった

―お二人は、女性議員がなぜ増えないと思いますか。

佐藤さん 選挙、じゃないですかね。「議員とは、政治家とはこうあるべき!」というイメージ、固定概念のせいで、選挙に出るというハードルがとても高くなっていると思います。

櫻田さん そして、なり手がいないですよね。男の人の中には、何にも声をかけないのにやる気がある人っていうのはなぜかいて、やっぱり議員は名誉職みたいに、一旗揚げるものみたいに思われているのかな…。私はそもそも議員ってそういうものじゃないと思っている。私だったら、今まで一緒に運動したり、一緒に何かを考えてきたりして、この人は本当にいいなと思う人に声をかけたいから、十分に知り合うことがすごく大事なことだと思っている。もうちょっと市民とつながって、政治のことを一緒に語れる相手をつくっていくことが大事だなと。

―いまは「誰もが議員に挑戦できる」という構造にはなっていないですよね。

櫻田さん 選挙の仕組みがまず変わらないといけないと思う。たとえば応援してくれる「組織」がないと、秋田はすっごく難しい。東京あたりだとSNSを使って選挙運動したりしているけど。

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―女性は自己評価が低くなりがちだということも時折、耳にします。

櫻田さん 私も「自分、大丈夫かな」っていう感覚が、ずっと人生の中であったかな。女性だということで「げた」を履かされるときもありながら、本当に大事なときは任されないから、私の実力はどこにあるのか、分からなくなる。そうするとどんどん、自分の能力が「小さいほう」に引っ張られていって「私は、本当は女性だから任されないんじゃなくて、自分自身に能力がないから任されないんじゃないか」っていう感覚に陥ってしまうことがある。ずっとそういう人生を送ってきていて、今もときどき考えてしまうことがある。

「痛み」を失ったらおしまい

佐藤さん 選挙について、市議のときはある程度やり方を覚えて、回を重ねるごとにどんどんコンパクトにしていこうっていうスタンスでやっていました。選挙カーも朝と夕方からの忙しい時間帯に走らせるのは迷惑でしかないなと判断し、走らせる時間を午前9時から午後6時にしたりしていました。県議の選挙はもうちょっとわけが違うというか。反対サイドからの攻撃とか、誹謗中傷のオンパレードだったので、なかなかハードでした。

―何があったんですか。

佐藤さん 誹謗中傷がひどくて、それを教えてくれる人がいたりして。それはやっぱり傷つくし、落ち込んだりしましたが、親も周りの支持者の人たちも頑張ってくれている中で、泣き言はいえない。でも限界だ、爆発するっていうときに、女性議員ハラスメントセンターっていうものを見つけて、メールで思いの丈を送ったらスッキリしちゃって。ためずに吐き出すって大事です。ただ、一度だけ母の前でだけ泣きました。

―そんなハラスメントがある状況で「頑張れ」「自信持て」と言われても、できるわけがないですよね。

佐藤さん 痛みを当たり前に「痛い」と言える人が必要なのに、ここまで強くならないといけないのかと。普通の感覚からまた政治が離れていっちゃうなという矛盾があります。

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―ますます選挙に出る女性がいなくなってしまいますね。

佐藤さん 女性議員ネットワークでは「これではいけないんだ」ということを伝えていきたいです。「政治家はこれをやらなきゃいけない、政治家はこうでなければいけない」という固定概念から、有権者のみなさんにも抜け出してもらいたい。

―現状を変えないまま、候補者に「鋼のメンタル」を求めるのはおかしいと思います。

佐藤さん 議員関係の人たちに弱音を吐いたときに「そんな程度の気持ちならやめれば」とか「気にするな」という反応もありました。でも、これを気にしなくなったらおしまいだと思うんです。だから、こういうことをしっかり気にして、その上で、それでも頑張るんだっていう話をしました。

―ハラスメントをしっかり気にする人にこそ議員になってもらいたいです。

佐藤さん 女性は多様な視点の一部です。女性が入れば視点も変わります。見方が変わります。いろんな感覚が入ってくると、議会が変化するきっかけになると思うんです。

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櫻田憂子(さくらだ・ゆうこ)さん 秋田県教職員組合執行委員長を経て、2023年4月の秋田県議選で初当選。積極的に取り組みたい分野は「教育や子育て」「労働環境改善」「多様性と人権尊重」。

佐藤光子(さとう・みつこ)さん 北秋田市議会議員を経て、2023年4月の秋田県議選で初当選。積極的に取り組みたい分野は「児童福祉」「教育」「子どもたちの『育ち』への支援」。

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