「自分は生きていていいのかな」 生活保護費の過支給 責任は、どこにあるのか 


「自分は生きてていいのかな、と思いました」
 生活保護費の障害者加算(生活費のおよそ2割)を削減され、さらに、過去の過支給分の返還も求められると知った当事者の女性が、こう話した。

「持病があって、働けなくて、保護っていう形で国や市にお世話になっているんだけど、こんな自分が、生きていっていいのだろうかって。なんか、何も、意味ないんじゃないかって」

 なぜ生活保護を利用するようになったのか。女性に話を聞きながら、これは個人の問題ではないと改めて思った。

 境遇、家族とのかかわり、その人にはどうしようもできなかった環境。さまざまなことが折り重なって保護を利用するに至り、日々を生きてきた。当事者たちが背負わされたのは、単なる「過支給金の返還」という借金ではない。自分は生きていていいのか、と問うほど、人としての尊厳を奪われている。それに気づきながら、行政は返還に向けて粛々と動いている。

 行政側のミスを市民がぬぐわされる可能性がある社会。どんなに声を上げても、それがすんなりとまかり通ってしまう社会ー。この問題は、私たちがどういう社会に生きているのか問いかけている。

【これまでの経緯】秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の2級以上をもつ世帯に障害者加算を過大に支給していた。5月に会計検査院の指摘で発覚。1995年の厚生省(当時)課長通知を見落としていたことが原因だった。市が11月27日に発表した内容によると、該当世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給額は約8100万円。秋田市は過去5年分の過大支給を、当事者世帯に返すよう求めている。返還を求められる額は、最も多い世帯で約149万円。

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 12月8日に開かれた秋田市議会本会議の一般質問で、市議の奈良順子さんが生活保護「障害者加算」の過支給返還問題について「まったく落ち度のない受給者に対して返還請求をすることは、受給者に寄り添った適切な対応と言えるのか」と秋田市側に問いかけた。行政のミスによる過支給分の返還について裁判所が取り消した判例や、見聞きした当事者の状況を訴えながら秋田市の方針を繰り返し問うたが、市は「分割払いを含め、寄り添った対応をしていく」と、当事者から返還してもらう姿勢を崩さなかった。以下は一般質問のやり取り。

奈良順子市議 生活保護の障害者加算認定誤りによる保護費の返還請求について、保護費を頼りに生活している受給者の方々には寝耳に水のような話でした。この問題について、全国公的扶助研究会会長である花園大学の吉永教授は、「会計検査院の指摘を受けてミスが分かったということですが、そのミスを棚に上げて、生活保護利用者に返還させるというのは、誰がどう考えてもおかしいことです。もし返還するとなると、最低生活費しかもらっていない中で、月々の支給が減額された上、さらにその中から返さなくてはならない。返還させるかどうかは市役所に裁量があります」と語っています。報道によると市長は「認定誤りのあった世帯に深くお詫び申し上げます。当該世帯に寄り添った対応をしてまいります」とコメントされています。今回の問題で、受給者の中には体調を崩されたり、夜も寝られなくなったりした方々もいると聞きます。ほとんど貯金もできない状況で突然100万円前後、返還請求されたら、どのような気持ちになるかをご想像いただきながらお答えをお願いします今回の本市における障害者加算認定誤りの原因は何か。また、その責任の所在はどこにあるのか。全く落ち度のない受給者に対して返還請求をすることは、受給者に寄り添った適切な対応と言えるのか

穂積志秋田市長 認定誤りの原因につきましては、国の通知内容の認識を一部誤り、そのまま内部で共有していたことから、長年気づかなかったものであり、保護の実施機関である本市にその責任があるものと認識しております。返還額の決定にあたっては、各世帯における生活状況を十分に調査し、世帯の自立更生に資する費用を控除するとともに、返還方法について配慮するなど、寄り添った対応をとってまいります。


奈良議員 今回の障害者加算認定誤りの責任は、市にあるということでよろしいでしょうか。

佐々木保福祉保健部長 先ほどご答弁した通り、保護の実施機関である本市に責任が、原因があるかというふうに認識してございます。

奈良市議 そうであれば、まず受給者には全く責任はないということでいいんですよね。

佐々木福祉保健部長 先ほども発言いたしました通り、本市の方に責任があるというふうに認識してございます

奈良市議 返還請求を受けたという方の話を聞きました。今までは1ヶ月8万8000円受給していたのに、1万6000円減額されて、1ヶ月7万2000円で暮らさなくてはならなくなった。その中から100万円前後の返還を求められた。それが心配で不安で夜も寝られないというので病院にもかかったりしているようです。そもそも生活保護というのは、それなりの貯金を認めていない制度だと思うんですけど、貯金をほとんどできない状態でいきなり100万円前後のお金を返還請求されるというのでは、これはその受給者に対して寄り添った対応と言えるんでしょうか?

佐々木福祉保健部長 ご質問のありました件につきましてはおそらく、こちらの方の現状をご説明したもので、「100万円を請求したものではない」かと承知してございます(※記者編注=当事者は実際に約100万円の返還額を示されている。だが、市側としては「そこから控除できる分があるため、まるまる100万円の返還を請求してるわけではない」という説明をしていると思われる)。内容につきましてはこの後も詳細に個々の状況を聞き取りさせていただいて、自立更生の費用などの控除もさせていただいた後で、さらに納付の仕方につきましても、寄り添った、分割ですとか、そういったもののご相談に随時乗っていきたいというふうに思っております

奈良市議 生活保護の返還処分を受けて、東京地裁に訴えた方がいまして、東京地裁では「行政側の過誤を被保護者の負担に転嫁するということは、社会通念上、著しく妥当性を欠くものと言わざるを得ない」というような判決が下りてるんですけれども、常識的に考えて、過ちがあったわけでもない方が、その責任を取らされて形でお金を返還しなきゃいけないっていうのは、何かすごく大変なような気がするんですが、そこも考えながら、なるべく負担のないようにという考えなんでしょうか?

佐々木福祉保健部長 生活保護法の63条で、こういった経費につきましても、まずは請求を、直ちに取りやめるというような制度にはなってございません。制度上そうなっておりますので、生活実態を丁寧に聞き取りさせていただいて、先ほどもお答えしましたが自立更生の費用を最大限、控除させていただいて対応してまいりたいというふうに思っております。

奈良市議 返還請求を取り消したっていう例は他の県ではあるんですけれども、まず本市は返還請求を今取りやめるっていう気はないということらしいんですが、やっぱりこの受給者の方々がこういう状況に置かれて、夜も寝られないっていうような、そういう精神状態に置かれているということに対しては、1日も早く安心したこの対応というか、そういうのを届けてあげなきゃいけないと思いますし、それが市長がおっしゃってた寄り添った対応だと思うんですけれども、これは市長に聞いてもいいでしょうか、寄り添った対応をしていくというので。

穂積市長 それぞれの立場、あると思うんですね。ですから、寄り添った対応をしてまいります。

 この記事を書きながら、秋田市側の答弁を、当事者の人にはとても読ませられない、と思った。当事者に負担させるという結論は、始めからできあがっている。

 市長の最後の答弁を、あらためて読んでみる。当事者の精神状態を懸念し、1日も早く安心できる対応を求める奈良市議の質問に対する答えだ。「それぞれの立場、あると思うんですね。ですから、寄り添った対応をしてまいります」。私には捨て台詞のようにしか聞こえなかった。具体策も、いたわる言葉も何もない。これが私たちの暮らす秋田市の代表の答えだ。

奈良市議の質問 https://www.akitashigikai.jp/view/?id=6488&sp=6234&mv=1&type=1&cat=64
秋田市の答弁 https://www.akitashigikai.jp/view/?id=6488&sp=6234&mv=1&type=2&cat=64 
奈良市議の再質問と秋田市の答弁 https://www.akitashigikai.jp/view/?id=6488&sp=6234&mv=2&type=1&cat=64

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