「生活の苦しさを見てください」 当事者、秋田市の保護課長に訴える

 物価がどんどん上がる中、1日1日、必死で生きる生活保護世帯が「資力を有している」わけがない。役所の人たちの感覚は、どこまで苦しい世帯の生活実態から離れているのだろう?
 そう言いたくなるような受け答えがおよそ30分続いた。
「過大に支給した分も『資力を有する』になります。県と国に何度も確認しています」
「制度上そうなっておりますので」
秋田市の生活保護担当課長は、返還を求めないよう要望に訪れた支援者と当事者を前に、いらだちをにじませながら繰り返した。

【これまでの経緯】秋田市は1995年から28年にわたり、精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)の2級以上をもつ生活保護世帯に障害者加算を過大に支給していた。5月に会計検査院の指摘で発覚。1995年に厚労省(当時は厚生省)から出された課長通知を見落としていたことが原因だった。市が11月27日に発表した内容によると、該当世帯は記録のある過去5年だけで117世帯120人、5年分の過支給額は約8100万円。秋田市は過去5年分の過大支給を、当事者世帯に返すよう求めている。返還を求められる額は、最も多い世帯で約149万円。

 12月20日、誤支給と返還の対象となった2人の当事者と支援団体が秋田市役所を訪れ、秋田市長あての要請書を手渡した。「120人に返還を求めないでほしい」という内容だ。その場に2人の生活保護担当課長が同席していた。

要請書を読み上げる「秋田生活と健康を守る会」の後藤和夫会長(右)と生活保護の2人の担当課長

 保護課長の言葉は、そばで聞いていてつらくなるほど高圧的なものだった。取材していた別の記者も帰り際、ひどかったですね、とつぶやいた。

 支援団体「秋田生活と健康を守る会」の後藤和夫会長と保護課長とのやり取りは次のようなものだった。

後藤会長 市長表明の「当該世帯に寄り添った対応をしてまいります」の中身が問われます。この年の瀬、120人の方が返還の件で何一つ心配なく新しい年を迎えられるようにすることは、市長の最低限の責務ではないでしょうか。

保護課長 市長の表明というより、制度上、過大に支給した分についても(生活保護法)63条にある「資力を有する」に当たるということですので。どうしても制度上そうなっておりますので。

後藤会長 受給者は正当な生活費だと信じてそのまま生活に充てて消費している。受給者には資力がないのに、資力があると見ていることになりませんか。

保護課長 過大に支給した分についても「資力を有する」に当たるということは秋田県と国に何度も確認しています。その方針をここで変更することはできません。法定受託事務なので。

後藤会長 本来は最低生活費を保障しなければならない市が、受給者に「無いお金」を払わせることになる。誤った相手にその責任をかぶせている。何のためのお詫びですか。

保護課長 責任は市側にあります。ただ制度上、返還を求めなければならないので。

 後藤会長も怒った口調だった。
後藤会長が、これまでの保護課職員とのやり取りについて言及すると、課長が「そんなことを誰が言ったんですか?」「言った職員の名前を教えてください」と語気を強める場面もあった。

 やりとりを聞きながら確信した。 秋田市は返還の方針を覆さないし、 謝罪も「寄り添い」も表面上のものである。

「返したら、死ぬまでかかる」

 重い空気が流れるなか、当事者の女性が、後藤会長に促されて自分の思いを語った。

 「私は、自分で計算してみたら(返還対象額が)100万円ありまして…。月1000円で返したら、死ぬまでかかるなと。年を取った後も、払い続けなければいけないのは苦しいなって…。物も高いし、困るな、と」。話しながら泣いていた。

 この女性のもとに秋田市から連絡があったのは9月。月2万4000円の障害者加算が誤支給だったため、削除すると電話で告げられた。それだけではなかった。「返してもらうことになる」と言われ、血の気が引いた。「この不安をどこにぶつけたらいいのか、今も分からない」

 もう一人の当事者の女性は、怒りに声を震わせながら2人の課長に言った。
「申し訳ないですけど、私たちの生活の実態を見てない、分かっていないです。今の生活がどれくらい苦しいか分かりますか。明日の生活も苦しくて。実態を見てください」

 月8万8000円の生活費(家賃を除く)のうち、過支給だと分かった障害者加算1万6000円を減らされた。返還対象額はまだ知らされていないが、おそらく100万円近くなる。両親はすでにおらず、頼れる親族もいない。「毎日、明日どうしよう、と考えている」

「実態を見てください」という当事者の声に、課長は「努めて参ります」とだけ答えた。

「寄り添った支援策」は曖昧なまま

 私は最後に保護課長に質問した。「自立更生の範囲はどこまでになりますか?」

 自立更生は、当事者が求められる返還金の減額(控除)につながる支援策だ。過去の生活費の一部が、返還金から差し引かれる。ただし減額の対象となるのは主に「家具や家電」で、支出の多くを占める「食費・光熱水費、携帯料金」は現時点では含まれない。

 秋田市として、自立更生の範囲を広げ、当事者を救済する方法を考えていないかを知りたかったのだが、秋田市の回答は「未定」だった。

 12月秋田市議会では、秋田市長、福祉保健部長とも「寄り添った対応策」として挙げていた「自立更生」。その範囲は、いまだ未定なのだという。

 このままでは「支援策」も言葉だけになるのではないか。

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