なぜ女性たちはつながるのか

 秋田県内の女性議員がネットワークをつくり、1月25日に秋田市で初回ミーティングを開きました。なぜ今、女性の「つながり」が必要なのか。女性議員の声をもとに、考えたいと思います。

偏っていることに、慣れ過ぎている

 まず、数字で現状を見てみます。秋田県の全議員(県議と市町村議)456人のうち、女性議員は51人。女性の割合は全体の約11%にとどまっています(2023年10月時点)。ちなみに女性議員ネットワークには、21人の議員が参加しています。

 たくさんの男性の中に女性が1人か2人。ときにゼロ。これが秋田の現在地です。

 この日の会場は、秋田県議会大会議室でした。壁には「歴代議長」の写真が並んでいます。

 全員、男性です。

 ものごとを決める場にいるのは男性ばかりで、女性がいない。そういう光景に、私たちは慣れ過ぎているように思います。

 慣れとは恐いもので、それがどんなにいびつな光景であっても、疑問を持たなくなります。
むしろ偏りをただすことに違和感や不安を覚えて「行き過ぎでは」「やりすぎでは」という声があがることもあります。男性だけでなく、女性からも―。

 そういう逆風がふく現状を女性が一人で変えることはできません。数人でも難しい。だから女性たちはつながったのだと思います。

「こんな損失ってない」

 ミーティングの始めに、呼びかけ人の一人である県議の加藤麻里さんが語りました。
「男の人にはなかなか言えないんだよねとか、こんなことを言うと全然相手にされないとか、こんなことを話していいのだろうか、といった思いを抱えている女性たちがたくさんいます。そういう大事な暮らしの声が議会に届いていない。こんな損失って、ないと思います。もっともっと秋田は変わっていけるはずだと思います」

 参加した議員たちの議論に耳を傾けると、さまざまな声がありました。

「多数派の人たちは議員報酬を上げる意見は通すのに、ケア労働の報酬を上げる意見には反対する。ケア労働を担う人の給料が低いことは社会問題になっているのにと、信じられない気持ちでした」と、ある市議は語ります。議員構成のアンバランスによって、生活に直結する問題が軽視されてしまうのは、加藤さんの言う通り「損失」だと実感します。

何だか変なルールに縛られている

 ある議員はこう話しました。

 「例えば、議場に子連れで行けるとか、いろんな敷居を低くすることで、議員に対する目とか議会に対する目も変わる気がします。でも、そこにすごく壁がある。私は『議会の品位』という言葉をよく男性の議員さんたちから言われます。服装とか、靴とか。それから『議長が退席するまで起立できない』ルールとか、そんな細かいことに気を遣うために議員になったんじゃないのに、市民の声を伝えるためにここに来ているのにと。こういうふうに変えたらどうかと意見を言っても『もっと勉強してから言ってください』とか『1期目で何が分かるのか』とか言われます。ベテランの方だけでなくて、若い議員さんからも。なんだか社会とずれているなあって…」

 「議会で安心して意見を言うことができない」という声もありました。男性議員ばかりの部屋に一人だけ呼び出されて叱責された、という事例も聞きました。女性議員に限らず、新人が声を上げようとすると押しとどめるような空気、萎縮させるような空気が、議会にはあるのでしょうか。

 議員になって待ち構えているのが、意見の言いづらい、がんじがらめの議会だったら、後に続く人はなかなか生まれないだろうなと感じました。

女性に「輝け」はもうやめて

 女性議員が増えないことについて、こんな意見がありました。
「中高生のときは生徒会とかに女性が多いんですよね。でも、就職して以降は逆転して男性が上に立つことが多くなる。このギャップは本当に、なぜなのかな」

 この話を聞いていて思い出したのが「インポスター症候群」という言葉です。政治学者の三浦まりさんの論考「政治を女性たちの手に取り戻すための3つの方法」(「エトセトラvol4」2020年秋刊行)で知りました。

 インポスターとは「詐欺師」のことです。論考を引用します。

 〈女性は自分が業績をあげたとしても、正当に評価されたのではなく、自分はインポスター(詐欺師)だ、本当はまだまだ努力が足りないのに世間を欺いているという錯覚に陥ってしまうと言われている。仕事において評価する権力は男性が独占していることが多い。男性たちのジェンダー・バイアスもあり、女性の業績は評価されにくいことを踏まえれば、高く評価されたのであれば堂々と自信を持っていいはずだが、逆にインポスター症候群に陥ってしまうこともある〉

出てきた意見をどんどん付箋に書いて貼っていきました

 加藤さんは、これまでの議員生活を振り返りながら「どちらかというと、県議会の男性議員に対して、何とか変わってほしいなという思いで頑張ってきました。だから県内の女性議員とつながるところになかなかたどり着けなかった」と語っていました。

 「女性活躍」「輝く女性」といった表現から感じられるように「女性側の奮起や変化」を求めがちですが、それ以前の構造が変わらなければ単に「性別にかかわりなく誰もが苦しい社会」になるだけに思えます。

「こうでなければ」と思わずに

 呼びかけ人の一人で、県議の佐藤光子さんはこう語りました。

 「何事も『こうでなければいけない』と決めがちな部分が、政治の世界にはあると思います。議員たるやこうでなければいけない、という思いが、多分私たちの中にも、男性議員の中にも、そして社会の中にもある。でもそうではなくて、どんどん変えていけるような考え方で進めていかなければいけないのかなと思っています。このネットワークは、そういう思いで皆さんとやっていきたいと思います」

「決めこまない‼ダメなら変える」の文字

 政治の話をしようとすると、有権者がササッと引いてしまう――と語る市議もいました。「1人でも2人でも、女性が議員にいて当たり前というふうに思えるように、私たちがどんどん発信していければと思う。私も、という気持ちになれるように」

 まとめの時間、ある議員はこう語りました。 
 「皆さん、いろんなところで、女性だということでつらさもありながら頑張ってらっしゃると思いました。こうやって議会選挙に出て、議員として頑張っていることを、身近な子どもたちや周りの人たちに見てもらうことが大切だなと感じました」

性差別はロシアンルーレット

 やりとりを聞きながら、秋田は「性別なんて関係ない」と言える域にはまだまだ達していない、とあらためて痛感しました。 

 「自分のまわりには女性差別はない」「自分は差別を受けたことがない」という人もいるかもしれません。それは、とても幸運なことだと思います。そして「そうではない女性」がいることを忘れないでほしい、とも思います。

 男女の格差を表すデータはいくつもあります。たとえば――

・日本の男性の賃金を100とした場合、女性の賃金は75・7
非正規労働者(2021年)のうち男性は652万人(21.8%)、女性は2倍以上の1,413万人(53.6%)
本意でなく非正規で働く人(2021年)は女性が109万人、男性が105万人
・4歳未満の子どもがいる夫婦の1日当たりの家事関連時間は、男性が1時間 54 分、女性は約4倍の7時間 28 分

 差別に遭うかもしれないし、遭わないかもしれないけれど、遭う確率が高い。まるでロシアンルーレットのように差別に遭遇する社会状況が、政治の力で少しでも変わればと思います。

たくさんの取材陣が3時間のミーティングを最後まで熱心に取材していました

【参考資料】
・「エトセトラvol.4」2020年秋刊行https://etcbooks.co.jp/book/

・男女の賃金格差 厚労省の2022年「賃金構造基本統計調査」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/dl/01.pdf

・男女の賃金格差の国際比較 男女共同参画局https://www.gender.go.jp/research/weekly_data/07.html

・非正規労働者の男女別推移 男女共同参画局https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r04/zentai/html/zuhyo/zuhyo02-07.html

2-8図 不本意非正規雇用労働者の状況(令和3(2021)年) | 内閣府男女共同参画局 (gender.go.jp)

・我が国における家事関連時間の男女の差(2022年) 総務省https://www.stat.go.jp/info/today/pdf/190.pdf

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