つぶやきからの質問状

 秋田県知事選挙が3月20日、告示されます。投開票は4月6日です。

 今回、身近な人たちと相談して立候補予定者の猿田和三さん鈴木健太さんに「ジェンダー平等と多様性」をテーマにした質問状を送りました。(※後日、佐藤琢磨さんも立候補を表明しました)

 きっかけは、秋田で暮らしながら積もりに積もった「もやもや」にありました。例えば――

若い女性を秋田に戻そうという秋田県の施策について「個人を『産む人』とみなしている」という声を聞くことがある。このような声は、為政者に届いているのだろうか。人口減少対策の中で「雑音」として切り捨てられていないだろうか?

秋田県内の首長(知事、市町村長)は全員男性だけれど、それはなぜなのだろう? 「ここから先は男性のみ」という領域は、どうしたら切り崩せるのだろう?

アメリカで「多様性」施策が撤回され、公権力によるトランスジェンダーや移民への人権侵害が堂々と行われている。秋田県はいわゆる「多様性条例」でマイノリティへの差別を禁止しているけれど、トランスジェンダーへの誹謗中傷は起きている。条例の精神は、これからもちゃんと守られるのだろうか? 

 このような疑問や不安を身近な人たちとつぶやき合っては、ため息をついていました。

 県知事選が近づくにつれ、立候補予定者のビジョンがさまざまな形で伝わってきましたが、例えば上に挙げたような疑問――「女性に生産性を求めて、人口維持の道具のように見ていないだろうか?」といった疑問への答えは、なかなか見出すことができませんでした。

 県内の議会での議論も同じです。人口減少が「秋田県の最重要課題」として認識されている中では、「若い女性を戻す=産んでもらう」になっていることへの疑問や批判の声は、かき消されがちです。

 こうして、不安や疑問は「わたしたちのつぶやきの中」にとどまったまま、知事選のゆくえを遠くから見守っているだけでした。

山形の動きに背中を押される

 年明け間もない1月16日、ある出来事がありました。山形の有志が「ジェンダー平等政策」に絞った公開質問を山形県知事選の立候補者に行ったことをSNSで知ったのです。メンバーの文章には〈公開質問は初めての経験だったので、何から手をつけたらよいか〉というところからのスタートだったことがつづられていました。

山形県の有志が知事選で行った「ジェンダー平等政策」についての公開質問を紹介する認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)のサイト

 疑問や不安があるのなら、直接、猿田さんと鈴木さんに届けてみたらいいのかもしれない。そう思って山形の試みを身近な人たちに共有したところ、その日のうちに「質問状を送ってみよう」ということになりました。

 質問項目の「たたき台」は自分が担当し、仕上がった文面を協力者たちに読んでもらいました。「もっと具体的に質問したほうがいい」「具体的な施策だけじゃなくて、立候補予定者がどう考えているかを尋ねたほうがいい」などさまざまな助言をもとに、二度三度と修正を重ね、2月26日に質問状が完成。翌27日、それぞれの選挙事務所をネットで検索して調べ、サイトにあったメールアドレス宛に送信しました。質問状を出すにあたって何かグループ名があったほうがいいということになり、名前は「ヒューマンライツ秋田」としました。質問状の内容は文末に紹介しています。

 「果たして、見ず知らずのわたしたちの質問に答えてくれるだろうか」という不安はありましたが、3月4日、さっそくお一人から回答が寄せられ、ほっと胸をなでおろしました。頂いた回答は告示日の3月20日に公開します。

「知事の働き方」をどう考えるか

 6項目の質問のなかに、下記のようなものがあります。

〈質問〉
・秋田県では、県庁内の管理職や県議会議員、民間企業の管理職に占める女性の割合がいずれも3割に届いていません。秋田県内のジェンダー格差の原因は何にあるとお考えですか
・知事は緊急時に即応せねばならず、子育てや介護、ご自身の治療や自分の時間を確保することに難しさのある職務と思われがちです。知事や政治家のワークライフバランスについてどのようにお考えでしょうか。また、具体的な実施案をお持ちでしたらお聞かせください

 ここ数年、秋田県内の女性議員と話しながら、ずっと考えていることがあります。それは、なぜ首長や議員は男性ばかりなのか、ということです。

 いま、秋田県内の首長(知事、市町村長)は全員男性です。過去にさかのぼっても、秋田県知事は1947年の初代公選知事からこの78年間、ずっと男性です。市長、町長もずっと男性です。唯一、村長はこの78年間で4人の女性が務めていますが、近年(平成以降)誕生した女性の村長は1人だけです。

 同質性の高い男性ばかりの領域(強くあることや自己責任や無理を強いられがちな場)に、女性(マイノリティ)が1人、2人、入ったとします。そこで女性(マイノリティ)が生き延びるにはどうしたらいいのでしょう。女性(マイノリティ)の側が「努力」して「成長」して「認められる」ことが必要なのでしょうか? もしも、その場所自体が「有害な男らしさ」に覆われた空間だとしたらどうでしょう。女性(マイノリティ)がそこに同化しようとすればするほど、異論を言えずに頑張れば頑張るほど、ますます新たな女性(マイノリティ)の参入は難しくなっていくのではないか。結果的に多様な人々はそこを去り、「やはり女性(マイノリティ)には務まらない」という結論にいたり、変わらない景色が延々と続いてしまうのではないか――。

 ときに分断される女性やマイノリティの声を聞きながら、問題は上記のような「有害な男らしさを温存する構造」にあるのではないかと思うようになりました。そのような構造を少しでも問いたいと思って、この質問を盛り込みました。

限界を感じて去っていく女性リーダー

 「家事や子育てや介護などケア労働との両立」について女性の候補者や政治家ばかりが質問を受ける、という現象があります。一方、ケア労働や暮らしとの両立に限界を感じて女性の政治家が職を去るという現象もあります。それが北欧において起きていることを、ジャーナリスト鐙麻樹さん(秋田市出身)の発信で知りました。

 鐙さんの投稿を引用します。

 北欧で取材してきた女性政治家やリーダーたちが、小さな子どもを育て、パートナーや友人関係を大切にしながら、体調を整え、自分の時間も確保しつつ、良きリーダーであり続けることは「無理だ」と率直に語り、リーダーの座を降りて別の立場へ転身する人が増えている。この現象は、社会の構造的な問題としか思えない。同じ理由でリーダーを辞める男性はほとんど見かけないのは、なぜなのか

 「北欧でも、無理なのか」という絶望を感じる一方、やはり「構造を変えていくしか道はないのだ」と改めて思いました。

 鐙さんが指摘しているように、そもそも「ケア労働を担いながら、首長が務まるか否か」という難題に女性ばかりが向き合っていること自体におかしさがあります。「誰が悪いのか」「誰が変わるべきか」ではなく、どんな仕組みや構造を変えたら多様な人が働けるようになるのかを、考え続ける必要があると思います。変えるべき仕組みや構造の中にはもちろん、「有害な男らしさ」に支えられた働き方や評価軸も含まれます。

 今回、秋田県知事選の立候補予定者はいずれも男性となっています。だからこそ立候補予定者の皆さんに「自分事」として考えてほしい、知事になってからもずっと考え続けてほしいという願いを込めての質問でした。

秋田県知事選立候補予定者への公開質問の内容

1 秋田県の女性の県外転出について、お尋ねします
 秋田県は20~39歳の社会減、中でも男性より女性の社会減が多いことを課題ととらえてさまざまな施策を展開しています。これについて2点、お尋ねいたします。

・20~39歳の女性の社会減が多い原因は、何であるとお考えですか。

・現在の県政では、社会減の施策として「若年女性」を対象とするものが目立っております。様々な要因が想定される人口減少の問題について、女性の中でも「若年女性」を重点的な対象とすることについて、どのように捉えていますか。

2 秋田県でのジェンダー格差について、お尋ねします
 秋田県では、県庁内の管理職や県議会議員、民間企業の管理職に占める女性の割合がいずれも3割に届いていません。これについて3点、お尋ねいたします。

・このような秋田県内のジェンダー格差の原因は何にあるとお考えですか。

・県庁内、県議会、民間企業でのジェンダー格差を解消するための施策としては具体的にどのようなものをお考えですか。

・知事や政治家のワークライフバランスについてお聞かせください。知事は緊急時に即応せねばならず、子育てや介護、ご自身の治療や自分の時間を確保することに難しさのある職務と思われがちです。知事や政治家のワークライフバランスについてどのようにお考えでしょうか。また、具体的な実施案をお持ちでしたらお聞かせください。

3 人権・ジェンダー平等の教育について、お尋ねします
 さまざまな性暴力事案、ジェンダー格差を背景にした女性への人権侵害が近年、社会問題となっています。これについて2点、お尋ねいたします。

・性暴力やジェンダー格差を背景にした人権侵害をなくしていくため、秋田県内の公立学校(小学校から高校まで)で具体的にどのような教育施策(授業内容も含む)をとっていく方針ですか。

・県内の公立学校には、男女それぞれの髪形や服装について細かく規定している校則が定められているところがあります。また、男女別の制服という学校が一般的です。こういった校則や児童、生徒への指導のあり方についてどう思われますか。

 貧困など困難を抱える女性への支援について、お尋ねします。
 2022年、DVや性被害、生活困窮などの困難がある女性を支援するための「困難な問題を抱える女性への支援に関する法律」(困難女性支援法)が施行されました。これについて2点、お尋ねいたします。

・困難女性支援法の趣旨である女性たちが直面する困難の背景について、ご自身の認識をお聞かせください。また、その背景には秋田県特有のものもあるとお考えでしょうか。その場合、どのようなものでしょうか。

・困難に直面した女性に対して、具体的にどのような施策の実施を考えていらっしゃいますか。

5 ジェンダーアイデンティティ(性自認)について、お考えをお尋ねします。
 「秋田県多様性に満ちた社会づくり条例」には、性自認などを理由として「差別すること、その他の権利利益を侵害する行為をしてはならない」ことが明記されています。しかしながら、アメリカでは大統領令によって多様性施策の撤回、トランスジェンダーへの迫害が広がり、秋田県内でも当事者の不安が深まっています。これについて2点、お尋ねいたします。

・「性自認」「SOGIE」(性的指向・性自認・性表現)について、どのような認識(お考え)をお持ちでしょうか。ご自身の認識をお聞かせください。

・SOGIEを理由にしたハラスメントや人権侵害をなくしていくため、具体的にどのような施策の実施を考えていらっしゃいますか。

 ハラスメントについてお尋ねします
 秋田県には首長等や議員によるハラスメントについて規定する条例がありません。この状況について何かお考えはありますか。ある場合、それはどのようなものでしょう。

【参考資料】
・秋田県サイト「秋田県多様性に満ちた社会づくり基本条例の施行について」https://www.pref.akita.lg.jp/pages/archive/63094
・猿田和三さんサイト https://saruta-kazumi.com/
・鈴木健太さんサイト https://suzuken-akita.com/
・認定NPO法人ウィメンズアクションネットワーク(WAN)サイト 山形県ではじめて、市民チームが実施「候補者へのジェンダー平等政策・公開質問」https://wan.or.jp/article/show/11688 ・公益財団法人 日本女性学習財団サイト「有害な男らしさ(トキシック・マスキュリニティ)」https://www.jawe2011.jp/cgi/keyword/keyword.cgi?num=n000318&mode=detail&catlist=1&onlist=1&shlist=1

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