〈県人寮の67%が男子専用 深刻な男女格差〉というタイトルの記事をSNSで目にしました。
「県人寮」は、地方から首都圏の大学に進学した学生を受け入れる寮。道府県の育英会が運営している例が多く、地元出身の学生のみが入居できます。ここに深刻な男女格差があるということが分かった、というニュースでした。
県人寮の男女格差を調査したのは、学生によるNPO法人#YourChoiceProject。「地方女子学生を取り巻く、進路選択上のジェンダーギャップ」解消をめざして活動している団体です。
#YourChoiceProjectによる「県人寮への女子学生受け入れに関する実態調査レポート」【2024年度調査結果】はこちらです。道府県の52県人寮のうち、全体の67%が「男子専用」だったという結果が明らかにされていました。
男女で部屋数にも格差
秋田県の県人寮がどうなっているのか気になり、まずはネットで検索してみました。ヒットしたのは公益財団法人「秋田県育英会」が運営する県人寮の情報です。
秋田県の場合、県人寮は男子学生用と女子学生用がそれぞれ一つずつあります。しかし詳細をたどってみると、女子学生にとって不利となる格差が見えてきました。
男子寮は世田谷区にあり、全119室。女子寮は神奈川県川崎市にあり全80室です。部屋数、そして都内大学へのアクセスに差があります。
男子寮は渋谷駅から3駅目の池ノ上駅で降り、徒歩3分。東京大学に近いです。女子寮は武蔵小杉駅からバスで7分、徒歩だと26分かかります。そして部屋数は女子学生の方が39室、少なくなっています。
「男子寮は非常に立地がよい」
この男女格差について、秋田県議会で過去に一度だけ、明らかにされたことがありました。2018年2月の秋田県議会教育公安委員会の場です。といっても男女の格差が問題視されたわけではなく「県人寮の入寮状況はどうなっていますか?」という県議の質問に対して秋田県側が答弁した中で、たまたま、男女の格差が浮かび上がったというものです。以下が秋田県の答弁です。
【答弁】 総務課長
学生寮は男子寮と女子寮、それぞれございます。男子寮は、通称秋田寮と言っていますが、秋田寮は119人の定員に対して現在112名入居しています。女子寮は川崎にございまして、80人の定員に対して大体6割程度で、こちらのほうが少し部屋は空いています。
いろいろ理由を聞きますと、男子寮は渋谷から3つ目の駅で、都内に近く、非常に立地がよいということもございます。女子寮は、川崎市にあり、最寄り駅が武蔵小杉です。非常に今人気を集めている駅ではあるのですが、都内の大学に通うまで少し時間がかかるという理由と、あとは3年生に進学するときにキャンパスを移られたり、ひとり暮らしをしたいという女子生徒の要望もあったりして途中で退寮される場合もあるようです。(2018年2月議会 教育公安委員会)
今から6年前に、このような男女差が県議会で可視化されていたことを今回、県議会の議事録検索を通して初めて知りました。
入寮者は減少の傾向
秋田県育英会によると、2024年4月時点の入居者は男子寮が69人、女子寮が21人。いずれも定員を大きく割り込んでおり、年々少なくなっています。
注目したいのは、男女のギャップです。秋田県育英会に提供いただいた「入居者の推移」をグラフにしたところ、男女の格差を温存したまま推移していることが分かりました。
男女とも入居者が減少している理由について、秋田県育英会は「門限などの規則がなく、自由に過ごせる一人暮らしを選択する人が増えているのではないか」と話します。また、男子寮に比べて女子寮の入居者が一層少ない理由については「女子寮は住宅地にあって非常に環境の良い場所なのですが、都心部の大学に通うにはやはり時間がかかる」という点を挙げていました。
2024年時点の入居者数は、女子学生のほうが男子学生より約50人少なくなっています。このような差が生じる背景には、2018年に秋田県が県議会教育公安委員会で答弁したように「男子寮は非常に立地がよい」「女子寮は都内の大学に通うまでに少し時間がかかる」という現実があるのではないでしょうか。
格差をこうむる側から見える景色
県人寮の設立は、男子寮が1903年(明治36年)、女子寮が1971年(昭和46年)といずれも歴史があります。立地の違いは前時代の人たちが残した男女格差の表れである、とは思います。
しかし「仕方のないこと」とは思いません。例えばもし、私が都内の大学への進学を目指す高校3年生で、より都心側の県人寮の利用を希望していたら、間違いなくこう思います。「男子は近くていいな」。なぜ男女で差があるのかと理不尽に思ったかもしれません。
格差をこうむっている側からしか見えない景色があります。「時代の名残でたまたま男女に差が出てしまった」のだとしても、いまだ格差があり、女子学生が不利な立場に置かれていることは事実です。
ちなみに女子寮がある川崎市の「小杉駅周辺地区のまちづくり」によると、武蔵小杉駅の周辺は2009年(平成21年)ころに開発が本格化。翌2010年(平成22年)にJR横須賀線の武蔵小杉駅が開業しました。武蔵小杉駅は現在、南武線、東急東横線、東急目黒線などが交差する非常にアクセスのよい駅となっています。しかし、女子寮ができた1970年当時から現在の「アクセスのよい武蔵小杉駅」があったわけではありません。
明治時代から都心近くにあった男子寮と、そうではなかった女子寮。その出発点の違いが生んできたものを、見落とさないようにしたいと思うのです。
女子と男子の開きは68年
県人寮を運営する公益財団法人秋田県育英会は、経常収益の75.3%(約1億5388万円)が秋田県補助金となっています。そこから考えても、秋田県として県人寮で生じている男女差を何らかの形で埋めてほしいと願います。例えば#YourChoiceProjectが提案しているように、男子寮、女子寮を「男女とも入寮できるようにする」などです。それによって、進学をあきらめずにすむ高校生が性別にかかわらず、いるかもしれません。また、門限や規則の在り方を学生たちの感覚に沿って見直していくことも、利用のしやすさにつながるのではないかと思います。
男子寮の設立は1903年(明治36年)、女子寮は1971年(昭和46年)。スタートラインから、68年の開きがあります。68年という年月は、秋田県の男女格差を表す指標のようにも思います。この開きが今も形を変えて、さまざまなところに残っている。県人寮の在り方も、その一つなのではないでしょうか。
【参考資料】
・NPO法人#YourChoiceProject 「県人寮への女子学生受け入れに関する実態調査レポート」【2024年度調査結果】
・公益財団法人秋田県育英会ホームページ http://akita-ikuei.jp/dormitory/
・秋田県議会会議録検索システム https://ssp.kaigiroku.net/tenant/prefakita/SpMinuteSearch.html