「間違いではありません」

 5カ月間、生活保護の「障害者加算」(障害があることによって余計にかかる生活費を補うため支給されるお金)を誤って止められていた秋田市のAさん。その原因は、秋田市が把握していたAさんの「初診日」が誤っていたことにありました。(詳しい記事はこちら

「ほかに間違いがないか調査を」

 同じような誤りがほかにも生じている可能性はないか。真相をしっかり解明してほしい―という要請書を4月19日、市民団体「秋田生活と健康を守る会」(後藤和夫会長)と虻川高範弁護士が秋田市長あてに提出しました。

 ミスの原因が分かれば、必要な対策も見えてくると思いました。そうすれば当事者はもちろん、医師も、現場の職員も、安心なはずです。

秋田市側に要請書を手渡す「秋田生活と健康を守る会」の後藤会長(左)と虻川弁護士=秋田市役所

 その受け渡しの場面で、秋田市側からこんな言葉が発せられました。

「間違いではありません」

「間違いではなく、新事実が確認された」と秋田市

 以下は、課長の発言内容の一部です。

 「『間違って障害者加算を削除された』と要請書に記載されておりますが、間違ってはおりません。我々はAという初診日をもって障害者加算を削除しました。しかし受給者のほうから『私の初診日はBです』という申し出がありました。このBという初診日が本当なのか調査したところ、Bが初診日という確認は取れませんでした。私どもはほかに(手がかりは)ないのかということでいろいろ調査をしたところ、Cという初診日が発見されました。たまたまAとCの初診日を書いた医師が同一でしたので、その医師のかたにAとCのどちらが初診日ですかと確認しに行きました。その結果、Cですよと医師が証言したので、新たな事実としてCを根拠にして年金納付要件を調査し、(障害者加算に)該当するということで障害者加算認定したものです。間違いではなく、新たな事実が確認されたことによって認定し直したというものです

「秋田生活と健康を守る会」が秋田市長あてに提出した要請書

 秋田市は、生活保護を利用しているAさんの障害者加算(生活費の約2割)を止め、過去に受け取った障害者加算を返還するよう求めて返還額(返済額)も示していました。それを5カ月後に撤回し、Aさんの障害者加算を復活させました。

 しかし、秋田市はあくまで正しいと信じたAを根拠に障害者加算を止めただけであって、加算を止めたことは間違いではなかった。そして今回は「新たな事実が確認されたことによって、認定し直した」のである、という主張でした。

 ちなみにこちらが、秋田市がA、B、Cと述べているAさんの「3つの初診日」です。

一人の市民の生活がおびやかされていた

事実関係は単純です。

  • 秋田市は、障害者加算を受け取れるAさんの障害者加算を5カ月間、止めていた
  • 原因は、秋田市が事実とは異なる「初診日」を把握していたためだった
  • 調査の結果、正しい「初診日」を確認できたので、秋田市は止めていたAさんの障害者加算を復活した

 誤りがあったから、Aさんは加算を止められたのです。

 その原因が「診断書を提出した当事者」や「診断書を書いた主治医」にあると受け取れるような主張をするのは、最低生活を保障する行政機関として、間違っているのではないでしょうか?

原因と対策は示されないまま

 この日、一番聞きたかったのは「原因と対策」でした。止められるべきでない人の障害者加算が止められるようなことが、なぜ起きたのか。今後、どうやって防ぐのか。

 保護課は事前の取材で「初診日の考え方で行き違いが生じないよう、改善していく必要がある」と発言していましたが、この日、公の場では対応策を聞くことができませんでした。

 今回の件で一番重大な事実は一人の市民が「最低生活を送る権利を5カ月間、奪われていた」ということです。その事実は変わりませんし、これこそが一番の問題なのです。

 「間違いではなかった」という主張よりも先に「今後どうするか」を秋田市には表明してほしかったと思います。

一つもなかった「当事者への言葉」

 今回の「間違い」は、一人の市民の暮らしを大きく左右するものでした。「1万6620円の重み」という記事でも書きましたが、月の生活費が9万円に満たない精神障害のある生活保護世帯にとって、障害者加算は欠くことのできない、非常に重いお金です。

 この日、秋田市側の出席者の誰からも、最低生活をおびやかされたAさんへの言葉は、ありませんでした。

 ちなみに、秋田市で起きているこの対立を生んでいるのは、精神障害のある生活保護世帯への障害者加算が国のルールによって複雑な仕組みになっているためです。

 身体障害と同じように「障害者手帳」の等級だけで障害者加算がつくシンプルな仕組みになれば、このような不毛なやりとりは生まれず、Aさんが5カ月も最低生活をおびやかされることもなかったと思います。

〈参考資料〉
・旧厚生省課長通知=「精神障害者保健福祉手帳による障害者加算の障害の程度の判定について」(平成七年九月二七日)(社援保第二一八号)(各都道府県・各指定都市・各中核市民生主管部(局)長あて厚生省社会・援護局保護課長通知) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00ta8465&dataType=1&pageNo=1

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