小さな紙に思いをのせて 「ZINE」を作る人たち

 ちいさな本「ZINE(ジン)」をつくるワークショップにおじゃましました。会場は秋田市の旧松倉家住宅。講師はライター・編集者の南陀楼綾繁(なんだろう あやしげ)さんです。4回つづきのワークショップなのですが初回と2回目を逃してしまい、1月21日の3回目を取材しました。約30人が参加し、小さな紙にそれぞれの思いをのせていきました。

 ZINEは、個人が自由につくって配る冊子のことです。内容や形は多種多様。簡単に説明しますと「伝えたいことを文章や絵で表現し、ホッチキスなどで綴じたシンプルな本」という感じです。

 たとえばA4サイズの紙が1枚あれば、このような小さなZINEを作ることができます。

ちなみにこの形にする手順は、
①A4の紙を3回折って、小さくしていきます。


②紙を開いて二つ折りの状態に戻し、この位置にはさみを入れます


➂広げるとこのように真ん中が切れた状態になります。


④これを縦に折ります。


⑤こんなふうにひし形になるよう中央に紙を寄せて…

⑥ひし形部分をぴったり合わせて指でしっかり折り目を付けたら

⑦できあがりです


このほか、細長い紙に繰り返し折り目をつけると、ジャバラ型のミニミニZINEの形になります。



デジタル全盛の時代だからこそ

 最近、ZINEをつくる人が増えているように感じます。デジタル、SNS全盛の時代。だからこそ、思いを紙(ZINE)に託して伝えたくなるのかもしれません。ZINEは気軽に取り組めて、自分だけの「紙の本」ができるという特別感もあります。

 参加者たちは2回のワークショップを通して、少しずつZINEの設計図をかためていきました。どんなことを、誰に伝えたいのか、何を書くのか、どんなビジュアル(絵や写真)をそえるのかーー。3回目のこの日は、早くも試作したZINEを持って参加した人もいました。

たとえば、こちらの作品。

 作者のたけださんは映画が好きで、「映画のある日常」についてZINEで表現したいと語ります。
 「自分の好きなことや私的なことを文にしてみたんですが、実際に書いてみたら、恥ずかしくなってきてですね。ZINEの形にしたら、少しは恥ずかしくなくなるかなと思ったのですが、やはり恥ずかしくてですね…」。自分の写真を貼ろうと思っていたのですが、恥ずかしいので、フリー素材の人物写真を載せることにしました。

フリー素材の人物写真をつかった、たけださん試作のZINE

 自分自身のことを表現するのは、案外ハードルが高い。照れや恥ずかしさを感じるかもしれません。

 綾繁さんは「書いた本人は恥ずかしいかもしれないけれど、読む人は何とも思わないから大丈夫ですよ。むしろ自分では『恥ずかしいな』と思うものを書いたほうが、面白かったりしますから」とアドバイスしました。恥ずかしがりながら、思いきって自分を表現してみるのも楽しいかもしれません。

一人一人の思いを聞き、アドバイスする南陀楼綾繁さん

 
思い、願い、夢、何を書いてもいい

 ワークショップに参加した動機は、みなさんさまざまでした。

 中学生のさくらばさんは将来、何かを表現する作家、あるいは小説家になりたいと思っています。その夢を知る母親から「こんなワークショップがあるよ」と教えてもらい、参加しました。今回作ろうと思っているのは「好きな本」を推すZINEです。巻末には「人の日常と人生」をテーマにしたショートストーリーを書こうと思っています。

好きな本を持参し、手書きでZINEを書き進めるさくらばさん

 みなさんの「作りたいZINE」を聞いているだけでわくわくします。たとえば――

「自分のふるさとは、ザイもザイなんですが(※「とても田舎である」ということ)私は地元が好きなので、そこの良さを伝えたいなと思っています。地域の地図と屋号も表しながら、地元の人たちを紹介できたらと思っています」

自分の日記からいくつか選んで、写真も入れたいと思います。表紙は日記っぽくレイアウトしたいです」

 参加者の一人、藤井さんは保育士をしています。園では年長の子どもたちがよくZINEを手づくりしているそうです。今回は10年以上前に作ったZINEをブラッシュアップさせたいと思って参加しました。

 こちらが、藤井さんが10年以上前に作ったZINE。

 タイトルは「小さな星の小さなおとこのこのおはなし」。当時4歳だった息子さんが話したことを冊子にしました。とてもすてきなZINEです。

 「息子は朝ごはんを食べながら、自分が生まれる前のことを話し始めたんです。その話を思い出すと、子どもなりに、世界がもっと平和になったらいいなとか、みんな仲良く暮らせる社会になったらいいなとか、願っていたのかもしれないと思ったりします。戦争、災害、いま、いろんなことがありますよね。だからもう1回、本にしたいなと思って参加しました」

 ちなみにこちらは、藤井さんが学生時代に課題で提出したという仕掛け絵本。


 最終回となる次回には、それぞれのZINEがだいぶ形になっていそうです。

 温かい気持ちで帰宅し、私も刺激をうけてZINEを試作してみました(まだ表紙だけです)。

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 ワークショップの冒頭、綾繁さんが「本にまつわる秋田のおすすめスポット」について話しました。いくつかご紹介します。

古ほんや板澤書房(秋田の古本屋)

 「ほんとに昔ながらの古本屋さんです。品ぞろえがよくて。飲み屋街にあるので、もしかすると知らない人もいるかもしれないですが、ここにいくと戦前の本、いわゆる和本ですね、あとは秋田の郷土関係の資料も数多くそろっているので、秋田を知りたいという人は行ってみてください。古くからあるお店で、いま何代目でしょう、3代目ですか、敷居が高いと感じるかたもいるかもしれませんが、ぜんぜん怖くないです、いい古本屋さんです」


あきた文学資料館(&県立図書館

 「あきた文学資料館には赤川菊村(※1)のスクラップブックがあります。菊村のスクラップブックには明治時代のいろんな写真とかお酒のラベルまで貼り込んであるんです。非常に貴重で面白い。貴重な資料なのでパッとは出てこないかもしれませんが。また秋田といえば伊藤永之介(※2)。この人の本のデザインは、めちゃくちゃ今の時代の感覚に合います。デザイン的なセンスのある本がたくさん出ているので、ぜひ図書館で見てみてください」

※1 赤川菊村(あかがわ きくそん、1883~1962年) 秋田県大仙市出身の新聞記者。菊村のスクラップブックは赤川家から文学資料館に寄贈されたもので、110冊を超えるそうです。

※2 伊藤永之介(いとう えいのすけ、1903~1959年) 秋田県秋田市出身の小説家。東北の貧しい農民の生活を描き、農民文学を開拓しました。「梟」「警察日記」などの作品があります。

 このほか、秋田市飯島にある古書店「灯(あかり)書房」、赤れんが郷土館横手市増田まんが美術館、秋田市中通にある会員制私設図書館「本庫HonCo 」などを紹介しました。

 「僕はワークショップで3回秋田に来ましたけど、ほんとにたくさん『本のある場所』が存在するんです。みなさん、いつも行っているお気に入りの場所だけでなく、行ったことのない場所にぜひ出かけてみてください。なるべくたくさんの本を見ることによって、自分なりのセンスが培われていくと思います。好きな本を愛でつつも、知らなかった本に積極的に手を伸ばすのも大事なのかなと思っています」(綾繁さん)

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このワークショップは、本にまつわるイベントを行うグループ「Akita Book Boat」が主催しました。
乃帆(のほ)書房」さん、灯書房さん、鐙啓記さん、メンバーのみなさん、ありがとうございました。

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